Biography

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    • Koichi Matsunaga

スマーフ男組は、好事家の目を白黒させ、また、じゃぶじゃぶ泳がせた音響派ユニット、短命に終わったアステロイド・デザート・ソングス(以下ADS*1)の活動休止をもって97年に結成、その七夕の夜に、勢いで命名された。
いや、記述に正確を期すのであれば、ADSは97年の12月8日に表参道の喫茶店で活動休止の結論へといたるミーティングをもったのだから、結果からいえば、ADSとスマーフ男組は半年かそこいらのあいだ並存したことになる。
また、スマーフ男組のルーツをさらに辿ってみるなら、それは、95年の12月14日に下北沢SlitsでおこなわれたギグにADSのメンバーであった高井康生(Ahh! Folly Jet)が出演できなくなったことから急ごしらえに準備された、M+M Production(*2)という2人組による出しものの、そのユニークな冒険に端を発したものだったことを頭にいれておいてもいいだろう。

スマーフ男組というネーミングには当初、「男組」を「男闘呼組」で表記しようや、という案もあったのだが、それはさすがにやりすぎだとマジアレは思いとどまった。そのことにいま、私たちは胸を撫でおろすほかない。
メンバーは、マジアレ太カヒRAW(村松誉啓,MCとたくさん担当)、コンピューマ(松永耕一,ターンテーブルとたくさん担当)、アキラ・ザ・マインド(高橋啓,鍵盤とたくさん担当*3)の3人。
「男組」の二文字にははじめ、あたかもPファンク・モブのように入れかわり立ちかわりメンバーを迎えいれる不定型のあつまり、ということが企図されていたが、幸か不幸か、現在にいたるまでこの3人のならびは不動のものとなっている。
3人は集まるとたいがい、缶ビールを開けながら、互いのウエストにひっついてくるようになった贅肉について意見を交わし、ゲラゲラ笑いあう。
ずうっと、そうだ。

それでは、スマーフ男組の履歴から目だったところを拾いあげてみることにしよう。
彼らはまず97年、ムードマン主宰のパーティー「低音不敗」(@西麻布クラブ・ジャマイカ)にレギュラー出演、これがオルタナティヴなマイアミベースのコンピレーション盤『KILLED BY BASS』への参加につながっている。
そこに収められた4曲が、スマーフ男組の処女レコーディングの成果となった。
『KILLED BY BASS』では、“八百屋”(ローランドのTR-808リズム・マシーン)のキックのディケイを伸長したサイン波の手前の音色によるWeird(奇妙)な「トルコ行進曲」、コンピューマによる斬新な、ヒップホップとマイアミベースと音響派との、うたう折衷案(“Basscillotron”)、オールドスクール・ヒップホップへの直截なオマージュ(“Phase 2: Roxy”)、失敗作ですってんころりんこけてるけれども、Pファンク・オールスターズのグルーヴを援用してものにしようとし、おまけにアキラ・ザ・マインドが犬を思う存分、鍵盤上に転げまわらせてみたもの(“Hydrauric Pump”)などが聴かれる。

ついで98年、彼らは、TPfX(ヒップホップ最高会議の千葉氏)、脱線3、荏開津広らと「エレクトロ・サミット」(@恵比寿みるく他)を企画、その大幅な発展形ともなったエレクトロ・ヒップホップのコンピレーション盤『ILL-CENTRIK FUNK VOL. 1』に“E・L・E・C・T・R・O ~スマーフ男組の808 MYTH APPROACH~”(*4)を提供。
また、同アルバムのリリース・ツアーでは、伝説のラメルジーといっしょのステージを踏むこととなった。
ADS時代からひき続き、このころまでに築かれてきた交友、そこから連なり拡げられた環境が、いまもかわらず、スマーフ男組の活動のバックグラウンドとなっている(もちろん、デイタイムに大手外資系CDショップでバイヤーをつとめるコンピューマのつちかってきた、ロス・アプソン山辺圭司らとの長きにわたる親密さなどがそこにふくまれることも……これはいうにおよばないが)。

さらに時期を前後し、スマーフ男組は三宿WEBにて月1のレギュラー・パーティー「スマーフ渚をわたる」を立ちあげ(*5)、以降も、DJ、ライヴ、数枚のコンピレーション盤への参加を経て、彼らのアイドル、アフリカ・バンバータとの対談などもこなしつつ(『エレ・キング』誌上)、現在、2003年の彼らは、5年越しの(だから労作、としかいいようのない)デビュー・アルバム『スマーフ男組の個性と発展』(*6)をやっつけんと、まい進中である。

ところで、2000年以降、ここで触れるべきトピックの数が限られてくるのは、彼らが、分をわきまえず「とにかくアルバムづくりに精進するため」として幾多のオファーを断ってきたからである。これは事実だ。
が、しかし。そう書いておけばすこしは聞こえがいいだろうかと私に余計な気をまわさせる状況に彼らが甘んじているのも、これまた事実といって相違ない。彼らがかつての相方、Ahh! Folly Jetの美しいアルバム、2000年にリリースされた『Abandoned Songs From The Limbo』に後塵を拝すること3年あまり、だ(以前、私がマジアレに『Abandoned Songs… 』のテスト盤のCD-Rを聴かせてもらったときに、その盤面にマジアレの手書きで、赤いフエルトペンででかでかと“負けないぞ!”と書いてあったことを思い返すと苦笑を禁じえなくなってくる)。
けれども、ここでは強調しておかなければならない。とにかく彼らは、たしかにときどき弱音を吐くけれども(とくにマジアレは)、いつだって音楽に対し真摯な態度をたもとうとしてきた。安心してほしいのだが、私の知るかぎり、彼らはそうしてきたと思う。
彼らがせっせと水をくべて「育て育て!」と叱咤してきた果実は、デビュー・アルバム『スマーフ男組の個性と発展』の音楽にあますところなく収められ、聴きとれるものとなって実を結ぶことだろう。
いま、2003年8月末において、『スマーフ男組の個性と発展』のための曲はすくなくとも11曲、ミックスダウンを終えている。マジアレによれば、そのアルバムのなかで「ラスコーリニコフがコロッケを買いにいったりする」らしいが、私にはなんのことやらわからない、まあ、期待して待とうではないか。

スマーフ男組の個性である、どんぐりまなこのエレクトロ・ヒップホップらしきものは、聴き手を瞠目させ、微笑ませる。
いいかえれば、彼らのチップマンク声=マンチキン声=チビ声とリズム・マシーンへの偏愛はほかにはなかなか例をみないもので、だからその姿は、オールドスクール・エレクトロの快活さを現代のポップの地平へ押しあげようとやっきになっている働きものの青い小人たちのようでもある。
まあ、さんざ周囲をやきもきさせていることからもわかるよう、かなりぐうたらなところもある……マジアレの口ぐせは、なんということだろう、「ぐずぐずしてすみません」(*7)だ。あにはからんや! こののらくらものめ! が、しかし。
いずれにせよ、彼らはその代表曲“808 MYTH APPROACH”で唄っている、「俺たちゃスマーフ男組/寝ても覚めてもエレクトロ」! マジアレに、なにゆえエレクトロかと問うてみたことがある。彼はしばらく考えてから私の目を見て、つぎのようなことを話した。覚えているまんまに書き出してみよう。

「うんやっぱり、エレクトロ・ファンクはかなり楽天的な世界観というかな、とてもアホウな──でも、真実の欠片とみまがうようなものがころがってる、そうしたものを、僕たちにかなり突拍子もないかたちでだけれども、示してくれるからなんだと思う。それで首たけなんだと思う。
むしろ、突拍子もないからこそ、惹かれるのかもしれない。
いきすぎだから、なのかもしれない。ええっと、僕が最近ふだん部屋でなにを聴いてるか知ってるかい? セシル・テイラーだぜ!? でもね、だけどやっぱりね、ああいうやり方をもってしても、エレクトロって音楽にも、すごく強度があると思うんだ。
セシルのそれとは似ても似つかないけどもさ。
ヒップホップの人がしばしば“半端ない”っていうでしょ、だけどやっぱ、スマーフは半端なのね。でも、エレクトロは半端じゃない。
そのチーパカチーパカいってるようなフォルムを自在に手なずけてだよ、僕たちスマーフ男組はポップへと突きぬけるんだ! 808命! チープ上等! ブンチキパッドゥンチキブンパドゥン」。

おなじく、“808 MYTH APPROACH”。
「カザールのメガネはコンピューマ/そんでアキラはマインド,アキラ・ザ・マインド/ミー,マジック・アレックス,小市民オン・ザ・ビート/ミーは808のヴァーチュオーソ,スマーフはエレクトロのマエストロ/渋谷,恵比寿,新宿,東京,声がかかれば,すぐにエレクトロ」……。
そこにぺてんはない。
いんちきはない。
彼らの口をついてでる「ロックする」というオールドスクール・ヒップホップの常套句はそこで、クリシェでなくなる。
それは言葉遊び以上のものだ。
そして、彼らはリー・ペリーのスーパー・エイプのように帰ってくる。
コンピューマは、猫背をすこし伸ばして「いえい!」といいながらターンテーブルとエレクトロニックなイクイップメントの電源を入れるし、アキラ・ザ・マインドは「ニャハハ!」と笑いながら、しかし冷静に鍵盤を、張りきった弦を、確実にたたくだろう。
心配なのはやつだマジアレだ、が、彼もきっとどうということもなく、「イエース、イエース!」だとか「ジー・ベイビー!」と口ばしりつつはしゃいで、マイクのケーブルにぐるぐるぐるぐるからまって笑うだろう。
スマーフ男組は、あたらしいリリースをもって、あなたがたを、私を、ウキウキさせる。ロックさせる。楔をいれる。躍らせる。踊らせる。

この一文は、私のためにときどきまあまあなパスタづくりの腕をふるってくれる(*8)、つかず離れずのつきあいを長なが続けている友人のマジアレに、「プロフィールだ、忌憚のないところを書いてくれ」と依頼されたもので、それにしては書きあげたあとに彼から、「この表現はまずいな」、うんぬん、すいぶん水を差されもしたものなのだが、しかし私はがんとして、書いたものを譲らずにおいた。
そのことが、これを読まれる諸兄の、スマーフ男組をさらに理解する一助となったならさいわいに思う。
また、マジアレについての記述が多くなってしまったことについてはここでお詫びしておきたい。

text:スティーヴン・スキムミルク(脚注とも)

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